- 企業の研究職ってぶっちゃけどうなのか?
- 企業の研究ってつらい?
- アカデミアと比較した時のメリット・デメリットを知りたい
この記事は、このような疑問を持つ方の参考になると思います。
私は企業で研究職として10年以上働いています。
身バレは避けたいので詳細は説明しませんが、それなりに企業の研究職とはどういうものか、ということについて分かってきました。
結論から言うと、仕事として辛いということはありません。むしろ労働基準法などによる縛りがあるので、肉体的な辛さという意味ではむしろ物足りなさを感じる人もいると思います。
しかし一方で、企業で研究職を続けていくことに困難を感じるタイプの人というのは間違いなく存在します。そしてある程度その傾向が分かってきました。この辺りについても私の個人的見解を記しておきます。
あなたが企業で研究職に就くか、それともアカデミアに残るか、はたまた研究から離れるか。その判断の参考になればと思います。
企業研究職のメリット
私が考える、企業で研究職についた場合に得られるメリットは以下の4点です。
- 労働時間が短い
- お金を使って効率、時間を優先する
- 「いい人」なだけで生きていける
- 研究以外の業務にも取り組める
順に解説していきます。
1、労働時間が短い
企業の研究職に就くような人たちというのは、大学の学部および大学院で研究生活を送ってきたと思います。そしてその生活は、個人差はあるものの多くの場合長時間拘束されるようなものだったのではないでしょうか。私も何度か研究室で朝を迎えたことがありました。
しかし、企業には労働基準法というものが存在します。
そして、昨今は働き方改革という流れもあり、特に長時間労働に対する取り締まりや規制が厳格なものになってきています。
そのせいで、労働時間という意味では長くなりえません。
その分限られた時間内で結果を出したりデスクワークを済ませたりする必要があるので仕事の効率化という課題にはぶち当たるのですが、早く帰りづらい雰囲気とかサービス残業というようなものはありません。
2、お金で時間を買う考え方を遂行できる
今となってはすっかり慣れましたが、「自分でやってる時間が勿体ないから外部に委託したり他人(派遣社員)を使う」という考え方が本筋だということは入社当初は戸惑いました。
何でも自分でやる、時間をかけてもお金が掛からない方法で。というのが学生時代(というか大学)のスタンダードな考え方だったので、ルーチンワークを中心に、型の決まった実験はどんどん外部に委託します。
結果として、私と上司の二人で立てた方針に従って10人を動かし、さらに2社の外部業者と連携して研究を進める、みたいなことも可能になる訳です。
生産性という意味ではいいのかも知れませんし、私はこの方針を立てたり結果を解釈して次に生かすというサイクルも研究職の仕事だと思っていますが、研究ではなく実験が好きな人というのも一定数いて、その方々は依頼される側の部署や会社に移られている印象があります。
まだ若手の場合はその委託される側になることが多いですが、それでも自分で全てを担当することは無くて、基本的な測定については外注しながら、時間効率の最大化を図っています。
3、出世を望まなければ「いい人」なだけで生きていける
他の業種でどうなのかよくわかりませんが、私はこれまで会社で「出世競争」というのを見たことがありません。傍から見て優秀な人、というのは割と誰の目から見ても明らかなことが多いです。
なので自然とそういった人が偉くなっていき、疲弊していく、というのが出世街道に対するイメージです。
そして一方で、出世からは縁遠い万年係長みたいな人達が結構多いのが研究職の特徴かもしれません。
このような方々は何か汎用性に富む一芸に秀でていて、その技術が故に一席を確保している、そんな印象があります。
割とベテランが多いので本人が新しい研究テーマや技術に対して知識をアップデートすることは余りないのですが、持っている技術を新たな研究テーマに適用する(優秀な周りの誰かが適用の仕方を考えてくれる)ことで、技術を動かす人として働いています。
そしてその技術が、社内でその人でないとできないとか、そこまでのものでもありません。しかしこれらベテランの特徴ですが、ほぼ例外なく人格者で、腰が低く、めっちゃいい人です。きっとそのキャラもポジション確保に寄与していると思っています。
4、研究以外の業務にも取り組める
研究を進めるにあたって、限られた時間を最大限に活用するために頻繁に外部との共同研究や業務委託といったアクティビティが発生します。
そしてそれに際して、アライアンス(契約)や知財など他の部署と一緒に仕事をすることがあり、そのような他部門とのかかわりも積極的に持つことが出来ます。
研究は研究しかわからない専門バカ、とは必ずしもなりません。
実際、何年か研究を続けたのちにそういうサポート部門に異動し、研究現場を離れるというキャリアパスも企業だと確立されています。サポート部門に異動したのちに現場に戻ってくる人もたまにいます。
周りを見れば様々な立場から研究に携われることが分かるので、研究関連職としては意外と選択肢が多いことを感じられると思います。
企業研究職に向いている人は?
企業で研究職として働くにあたって、どんな人が向いているか?私は以下の特徴を持っている人が向いていると思います。
- 置かれた場所で咲こうとする人
- 様々な分野のことに興味がある人
- 他人とのコミュニケーションが苦でない人
順に説明します。
1、置かれた場所で咲こうとする人
企業の研究職では、研究テーマや分野を自分で選ぶことは基本的にできません。それまでどれだけ成果を出していたとしても、翌年会社の方針で予算配分が削られたり、果ては研究そのものが止まることもあり得ます。
その「テーマを自分でコントロールできないこと」を受け入れられるかどうかが重要だと思います。
「不満はあるけどまぁ会社だし仕方ないよね」とは誰しも思うのですが、自分で決められないことに対して、「次の場所で頑張ろう」と切り替えて頑張れる人は向いていると思います。
2、様々な分野のことに興味がある人
アンテナを様々な方向に向けて、広く情報収集をしたり様々な分野に興味を持てる人は向いていると思います。
これは先ほどの件とも関連しますが、研究テーマが会社の都合で変わる場合があるため、例え研究の題材として面白くても、その後の製品化の芽がなければプロジェクトを中止するという判断もしなければなりません。
個人のめぐりあわせによりますが、研究テーマがころころ変わる中、その新しいテーマにすぐ入って行けるかというのは企業の研究職として大事な要素かも知れません。
もちろん一つのテーマに拘りぬくという心意気も大事なので、「興味を持てるとラクかも」といったところでしょうか。
3、他人とのコミュニケーションが苦でない人
アカデミアと比較して、様々な異なる分野の専門家とプロジェクトを結成したり、共同研究や業務委託など外部の方とコミュニケーションを取る機会が多いです。
「苦手な部分は他の出来る人に任せる」「自分は自分の実験だけできればいい」という方以外は、コミュニケーション能力があると仕事が楽になると思います。
まとめ:企業の研究職はつらくない!
企業で研究職として働く場合、待遇などは恵まれている代わりに自由度に制限がある(対アカデミア)という特徴があります。その点を受け入れられるか否かが全てだと思います。
最後に、実験だけする人は下請け、のような記載になってしまいましたが、実験をお願いされることが多くなるというだけ意味です。
本人に研究の遂行能力があればただの技術屋にならず、実験研究者としてキャリアを形成することはもちろん可能です。マネジメントがイヤだから、という理由で昇進の打診を断り、会社の幅の中でやりたい仕事をして、多くの部門からの信頼を得ている先輩もいます。
企業での研究職を志す方の参考になると嬉しいです。