- 企業の研究職ってどうなの?
- 大学で研究を続けるのとどう違うの?
- 自分は企業の研究職が向いてるかなぁ
この記事ではこのような疑問に答えます。
私は企業に勤めて10年が経ちました。詳細は省きますが、研究職の人間です。
結果として、私自身は企業の研究職に向いているかもしれないと思えるようになったのですが、周りの同僚で研究職を離れていく人たちを何人も送り出しています。
その理由は様々ですが、一つ言えることは能力的に劣っているから離れた、ということは決してないということ。
本記事では、企業の研究職のデメリットをまとめてみました。
「大学か?企業か?」で迷っている人、「研究か?他の部門か?」で悩んでいる人の参考になると嬉しいです。
↓↓研究者としてのキャリアに迷いを抱いたら、自己研鑽として英語学習をおススメしています。
↓↓メリットについては以下にまとめていますので参考にしてください
企業研究職のデメリット
企業の研究職には、以下の4つのデメリットがあると考えています。
- 研究テーマを選べない
- 納得いくまで研究できない
- 論文が書けない
- マネジメント層に人格破綻者が多い(偏見)
順に解説していきます。
1、研究テーマを選べない
企業研究職の最大のデメリットは研究テーマを選べないことだと思います。
もっとも、「薬の研究がしたい」「新素材に関する研究がしたい」のような括りであれば大丈夫ですが、会社がどの分野に力を入れていくか、という大枠を決めるので、それに含まれない分野の研究をすることは実際には困難です。
会社によっては「20%ルール」というGoogleさんにあやかったような制度を標榜することもあるようです。しかし、やりたい研究が会社の本筋でなかった場合に労働時間の20%しか割けない状況を受け入れてまで企業に属する必要があるのか、という問題はあると思います。
自分が究めていきたい分野の研究を会社が選ばなかった時、考えられる選択肢は「他の分野の研究に就く」か「その分野を行っている他社に転職」となります。海外では後者が殆どだと思います。
今あなたが大学で取り組んでいる研究分野は、ホットなものですか?流行に乗れとは言いませんが、企業として商品化を目指して研究を行う場合、ある程度の流行りすたりがあると思います。
あまりに前時代的なテーマだと企業で持続的に取り組むのは難しいかもしれません。
2、納得いくまで研究が出来ない
研究の継続可否の判断をどこかのタイミングで下す必要があるのはどのテーマにおいても同じです。しかし多くの場合、企業での研究プロジェクトは中止の判断をした場合は「突き詰めてやめる」ことが十分にできません。
傾向としては早めの中止判断を行いますし、それを推奨する雰囲気すらあります。
まだ100%ダメだと決まったわけではない、という状況でも次へと切り替えることを必要とされますし、その判断が自分で下せないことも多いです。
3、論文が書けない
企業の研究で得られた知見は全て会社に属します。ですので、研究データを外部発表(論文や学会など)することにはかなり高いハードルが存在します。
外に出せるぐらいまで結果が出ているプロジェクト、あるいはもう中止になったプロジェクトが対象となり、現在進行中のプロジェクトについては発表が難しいというのが実際だと思います。
そしてそのような発表の機会に恵まれたテーマであったとしても、多くの場合チームで仕事をしているのでその1st authorが自分になるとは限りません。
研究成果を論文として残せない以上、研究者としてのトラックレコードが積み重なっていかないことになります。企業で10年研究職として経験を積んだけど論文ゼロ、ということもざらにあります。
修士卒で入社して、論文を書いて博士を目指すというパターンは割と周りでも見聞きします。しかし既に博士号を持っていて、その後のキャリアのために論文を増やす、というパターンの企業研究者は少ないように思います。
ただしどの会社においても、一口に研究職といっても、商品開発に近い部署とそうではない基礎技術に特化した部署というものがあります。あるいは部署として分けるのではなく研究者それぞれがテーマとして持っていることもあるかもしれません。
その基盤技術に関する部署にいれば、KPIの一つが外部発表の数だったりするので論文は書きやすいかもしれません。
4、マネジメント層に人格破綻者が多い(偏見)
これは近年は当てはまらないかもしれませんが、経験からの個人的見解を述べます。
多くの場合、研究を極めようとする人には変人が多いです。頭はいいが人の気持ちを汲み取ることが出来なかったり、合理的が過ぎて人を傷つけるような物言いを平気でしたり。
そして、研究者をマネジメントする課長、グループリーダーは研究者から選ばれるので、マネジメントスキルに長けた人が多いとはとても思えません。
現場の1プレーヤーとしては優秀だったのかも知れないが、リーダーとしては如何なものか?と人格を疑うような管理職の人間が多いです(個人の見解)。
あなた自身がそれに負けずとも劣らない曲者であれば問題はないかもしれません。そうでない場合は、、、是非ある程度覚悟しておいてもらうといいかもしれません。
私の会社の状況としては、近年幹部社員になったような人たちは優秀で心優しい人たちが多い一方で、昔からの人たちは変な人が多いです。年を取ってから変わった、というレベルでなく、若いころからヤバかった面々です。
マネジメント層の人選が改善しているのかどうなのか。
企業研究職に向いていない人は?
企業で研究職として働くことが向いてない人達、というのは間違いなく存在します。
私の周りでも、研究職を去っていく人が多くいました。しかし彼らが辞めた理由の殆どすべては「研究についていけなくなった」という能力的な問題ではありませんでした。むしろ優秀だと思っていた人たちから辞めていく印象です。
その時の経験から、いずれ辞めそうな人という括りで特徴を挙げたいと思います。
- 自分の研究テーマに対するこだわりが強い
- 何事も自分でやらないと気が済まない
順に解説します。
自分の研究テーマに対するこだわりが強い
大学から研究者としての道を歩み始めるわけですが、そこで「研究は楽しい」という思いを抱けば進路の候補として「企業の研究職」が含まれてきます。
その時に同時に「自分はこの研究の道を究めたい」と強く自覚できる場合、やがて企業での研究を辞めたくなるかもしれません。
会社は一つの分野に研究リソースを投下し続けることはありません。10年ならあり得ますが、30年続くことは無いでしょう。
今あなたが興味を抱いている分野が企業の方針と一致していたとしても、それは今現在の話であり、将来を約束したものではありません。
会社の方針変更に関するアナウンスを聞いた際に「自分はこの会社にいるべき人間ではない」「自分は必要とされていない」と感じ他の道を探る、というパターンを周りにたくさん見てきました。
一つ断言しておきたいのが、それらの選択はどれも素晴らしい決断であり、私の周りのみなさんも後悔はしていなかったということです。企業に進んだ時点でそうなる可能性はあることをみなさん理解していたので、研究部門で得た知見を活かしてマーケティング部門に異動、というパターンなども割と多く見かけます。
企業に勤めて研究の道で食っていくなら、一つの分野へのこだわりが強すぎるとしんどくなりますよという話です。
何事も自分でやらないと気が済まない
企業でのメリットとして、多少お金をかけても時間を取る、という意味で積極的に外注、委託をするという話をしました。
これと表裏一体の問題となりますが、「何事も自分でやりたい」という人はストレスを感じるかもしれません。
これは業務に対する取り組み方の問題なので、自分だけで圧倒的な成果を出し続ければもちろん研究者としてやっていけないことはありません。ただ、近年は特に労働時間に対する縛りがあるので、限られた時間内で成果を出すことが強く求められます。
他人にお願いすることが出来ない人の場合、窮屈さを感じることになるでしょう。
「自分は今は学生で何でも自分でやっている。他人に任せる感覚が分からない」という方。技術員さんのリソースは限られると思いますが、後輩に実験を手伝ってもらってください。
きっと最初は困難を感じますが、「自分が他の仕事をしているうちに別のデータが出ている」ことに対する快感は一度覚えるとむしろ病みつきになります。
まとめ
繰り返しになりますが、企業で研究職に就いて嫌だなと思ったら他社へ移るなり、異動願いを出すなりして次の道に移ればいいだけです。それらの判断は何も悪いことではありません。
企業での経験を経て大学に戻る、という道もないわけではありません。
ただ願うべくは、「大学から続けてきた研究が出来なくなった時に会社の決断や方針を批判し、かといって自分からその研究に取り組める環境を模索するわけでもなく燻っている」という人生は歩んでほしくないです。
ドラマなんかではそういう日陰キャラは救世主になりえますが、現実世界で見ている限り全然カッコよくないです。
他者への批判に自分の時間を費やすほど研究者は暇ではないはずです。
今後の決断の参考になれば嬉しいです。