円形脱毛症の治療法とは?

『円形脱毛症になってしまったけど、どんな治療法があるのだろう?』

『今自分が受けている治療以外にどんな治療法があるの?』

この記事ではこのような疑問に答えます。

また、本記事における円形脱毛症の治療法の効能については、日本皮膚科学会の提唱する「円形脱毛症治療法ガイドライン2017年版」を参照しています。

そこで併せてエビデンスに基づく推奨度についても言及し、その効能についてなるべく客観的な知見を基にした評価となるように心がけました。

各病院のサイトだと、自分たちの治療法が有効であると宣伝したいため、バイアスのかかった記事になってしまう恐れがあります。

しかし、この記事ではそういった偏りを極力なくして、「今明らかになっている事実」に即した記載になるように心がけました。

円形脱毛症の治療法の評価方法

個々の症状や発症からの時期によって選択できる治療法は異なりますので、そのような「どのようなステージ、症状の方に有効か」という点が明らかになるように以下に詳しく解説していきます。

エビデンスレベルについて

エビデンスレベルとは、とある研究データやコメントにおける信頼度、確からしさのことです。

以下の2つの治療法で、より信頼できそうな方はどちらですか?

  • Kotetsuという謎の匿名ブロガーが「効いた!」と勧める治療法
  • 患者を10000人集めた試験で効果があると確認された治療法

これはあまりに極端な例ですが、このようにある治療法の効果についてはその確からしさを評価し、分類する仕組みがあります。実際の分類は以下のような基準となり、レベルIが最も信頼度が高いです。

エビデンスレベルとその基準

レベルIa:ランダム化比較試験を複数解析したもの

レベルIb:少なくとも一つのランダム化比較試験

レベルIIa:ランダム割付を伴わない同時コントロールを伴うコホート研究

レベルIIb:ランダム割付を伴わない過去のコントロールを伴うコホート研究

レベルIII:ケース・コントロール研究

レベルIV:処置前後の比較などの前後比較,対照群を伴わない研究

レベルV:症例報告,ケースシリーズ

レベルVI:専門家個人の意見(専門家委員会報告を含む)

またエビデンスレベルにつながる試験デザインについても少し。

「病は気から」という言葉があるように、人間は結構思い込みで病気をコントロールする事があります。治療法の真の効果を検証するにあたっては、このような思い込みによる作用の上乗せ(あるいは減弱)については差し引いた形で評価しなくてはなりません。

また、よくテレビショッピングで画面の端に小さく書かれている「効果には個人差があります」というテロップ。

個人差というのも治療法の効果を検証するためには気をつけなければいけない要素です。

つまり、とある一人に対して効果があったからと言って、それが真の作用をどれだけ反映したものなのかということは到底わかりません。

「自分は薬を飲んでいる」という思いだけで体が反応する可能性もあるので、薬を飲ませない人にも同じように錠剤を与えたり(偽薬、プラセボ)、薬の反応を統計学的に解析するために、十分な例数を積み重ねる必要があります。

このようにデータの取得に細心の注意を払ったうえで、治療法による真の作用の有無、およびその程度について、医学研究に携わる方々は慎重に検討を重ねています。

推奨度について

推奨度とは文字通り、その治療法を医学的観点からどれだけ勧めることができるか、という観点で評価したものです。

誰の目からも明らかな効果があると証明された治療法については推奨度は高くなりますので、エビデンスレベルが高い試験で効果ありと判定されたものは必然的に推奨度は上がります。

一方、治療効果はイマイチだけど患者の精神衛生上いいよね、という評価も推奨度に影響します。円形脱毛症で言えば「かつら」などがそうですね。

かつらをかぶっても髪は生えません。ですが、脱毛部位を隠せることで精神衛生上プラスにはたらく方もいるため、「治療法」というより「ケア」として選択する価値があるという判断かと理解しています。

推奨度は大きく分けると以下の5段階に分けられます。A, B, C1の3段階に含まれない治療法を行っている方は、以下の解説記事は読まないか、担当の方に相談された方がいいように思います。

※エビデンスは万能ではありません。エビデンスがあるから自分にとってもあてはまる治療法であるとも限らず、また同様に、エビデンスがないから自分には効果がない、ということを保証するわけでもありません。

たとえ推奨度がC2以下であったとしても、その方法に効果があると感じているのであれば、それはあなたにとって真実です。

疑問を抱きながら治療を受けるのはおススメしませんので、主治医とよく相談の上、ご自身で判断するようにしましょう。主治医が選ぶ治療方針に疑問を感じる場合、セカンドオピニオンという手もあります。

推奨度の分類

推奨度は以下の5段階に分類されます。

A.行うよう強く勧める(少なくとも1つの有効性を示すレベルIもしくは良質のレベルIIのエビデンスがあること)

B.行うよう勧める  (少なくとも1つ以上の有効性を示す質の劣るレベ ルIIか良質のレベルIII,あるいは非常に良質のIVの エビデンスがあること)

C1.行ってもよい  (質の劣るIII~IV,良質な複数のV,あるいは委員会が認めるVIのエビデンスがある)

C2.行わないほうがよい  (有効のエビデンスがない,あるいは無効であるエビデンスがある)  

D.行うべきではない  (無効あるいは有害であることを示す良質のエビデンスがある)

各治療法とその推奨度を以下に掲載するのでご確認ください。

円形脱毛症の治療法とその推奨度一覧

CQとはClinical questionの略だそうです。「円形脱毛症治療法ガイドライン2017年版」より

 他の疾患に関するガイドラインを詳しく見たことがあるわけではないですが、特徴として、「A:行うよう強く勧める」がないところが挙げられます。

いかに治療法の確立が難しいのか、精度の高い臨床データの集計が困難であるかということを反映していると思われます。

いくつかの治療法についてピックアップして詳しく解説したいと思います。

円形脱毛症の治療法_詳細解説

ステロイド局所注射療法:B(行うよう勧める)

 円形脱毛症の治療法として比較的よく聞く、ステロイドの脱毛部位への局所注射による発毛促進効果については、ランダム化試験の実施例がありません。

しかしプラセボと比較して発毛の評価指標が改善することを示唆する結果が複数の非ランダム化試験によって確認されています。

 有害事象としては局注部位に萎縮や疼痛、血管拡張などが確認されており、投与は限局した脱毛巣に対してのみ、また成人のみの適応となっています。

局所免疫療法:B

円形脱毛症の治療法として局所免疫療法によるランダム化試験は実施例がありませんが、複数の症例研究によってSADBEおよびDPCPの塗布部位において脱毛斑の縮小が認められたことを示唆する研究結果があるそうです。

効果は期待でき、症例型や年齢を問わずあらゆる症例に対して第1選択として行うことが勧められていますが、その中心となるSADBEやDPCPは保険適応ではありません(なんでやねん)。

実際、多くの治療院でSADBE療法が採用されているように思います。あくまで進行中のフェーズで効果が期待できるものだそうで、完全に脱毛してしまった状態から発毛が期待できるかというとそれは難しいかもしれません。

☆この治療は僕も経験しています。

ステロイド外用療法:B

推奨文:単発型から発毛部位の融合のない多発型の円形脱毛症に対しては,1 日 1~2 回の強力なクラスのステロイド外用療法(軟膏塗布)を行うことが推奨されます。

ステロイドクリームの作用については、12週間のランダム化試験(患者層を無作為に投薬群とプラセボ群に分類して作用の有無を見極める試験)が報告されています。結果として、25%以上の毛髪再生例は薬剤群で有意に高かったが、完全回復については有意差を認めなかった、とのことです。

つまり、軽度の改善なら期待できるということかと思います。

また、全頭型や汎発型患者 28 名での0.05%クロベタゾール軟膏ODTの左右塗り分け試験では,6~14 週後に 8 例(29%)で薬剤塗布側に毛髪の回復がみられています。

その時点で反対側にも薬剤処置を始めたところ,いったんは 8 例ともに毛髪は完全回復したそうです(そのうち 3 例は試験中に再発し治療前の状態にもどったそうですが)。

↑効き方に左右差はない、ということは分かりますが、この薬剤の効果を発揮する確率が文字通り3割なのか、患者さんの状態に差があるがゆえに生じた結果なのかが分かりません。

このように、同じ脱毛でもその状態を定量化するためのバイオマーカーに関する研究も進んでいないという印象です。

ステロイド内服療法:C1(行ってもよい)

推奨文:円形脱毛症に対するステロイドの内服療法は、発症後6カ月以内で,急速に進行しているS2以上の成人症例に使用期間を限定して行ってもよい。ステロイドの外用・注射などの他標準的治 療に抵抗する症例に検討する。

重症型症例に対しての複数の非ランダム化試験において、ステロイド内服投与による発毛、脱毛範囲の縮小などの効果が確認されています。一方で再発例が多く、長期的な予後の改善や再発例への有効性のエビデンスはないそうです。小児への適用は勧められません。

静脈注射によるステロイドパルス療法:C1

推奨文:円形脱毛症の治療法としての静注ステロイドパルス療法は、発症後6カ月以内で急速に進行している成人症例に行ってもよい.再発例が多いことと、ステロイドによる副作用の十分な患者説明が必要である.

発症6か月以内で、脱毛面積が50%以内の症例であれば、ステロイドパルス療法により88%の患者で75%以上の毛髪が回復したとの成績があります。ですが、治療開始時に脱毛面積が100%であればその効果は低下してしまいます。

脱毛が全頭性に移行する前ならある程度効果的だと考えられますが、長期的な予後の改善などのエビデンスはなく、また副作用の懸念もあるため慎重な適用が必要だと思われます。

冷却療法:C1

推奨文:単発型および多発型の円形脱毛症の症例に併用療法の一 つとして行ってもよい。

複数の非ランダム化試験と症例集積研究から、雪状炭酸や液体窒素の処置で脱毛範囲が縮小することを示唆する結果が見いだされています。効果の程は十分に検証されていないが、簡便で副作用も軽微であることから併用療法の一つとして行ってもよい、とのことです。

紫外線療法:C1

推奨文:症状固定期の円形脱毛症で、全頭型や汎発型の成人例に対してPUVA療法を行ってもよい。また、すべての病型の患者に対してエキシマライトまたはnarrow-band UVB療法を行ってもよい。

いずれの療法も発毛を示唆する強い根拠の結果はありません。しかしいずれも大きな有害事象がなく、安全性と利便性が高いことを踏まえて全ての病型に対して治療を適用してもいいとされています。

☆この治療は僕も経験しています。

 

レーザー治療:C2(行わない方がよい)

円形脱毛症の治療法として、レーザー治療およびPDTはいずれも発毛促進効果を評価するランダム化試験は実施されていません。また有効性を示唆する根拠に乏しいため、現時点では行わない方がよい、とされています。

催眠療法、心理療法:C2

円形脱毛症は精神的なストレスが病態に関連している可能性は否定できないが、効果の有無は不明。心理療法のメソッドや効果の検証方法などを揃えることが難しい点もあるので、きちんとした評価を行うためのデータが揃えられないというのが正しい解釈かなと。

鍼灸療法:C2

鍼灸療法の効果については、医学的な評価水準に達したデータはなく、論じることができない(だからとても推奨はできない)。今後臨床試験で十分に検証されるべきとのことです(試験が行われることはなさそうですが)。

かつらの着用:B

上述しました。「治療法」という括りではありませんが。

病勢に影響はないが、紫外線や外傷防御の点で推奨されますとのことです。こじつけ感が半端ないですが。

また、かつらを使用していた49名の女性患者を対象とした症例研究で、かつら装着が効力感、積極的適応性、自尊感の3因子(をスコア化した指標)でベースラインに比べて有意な増加を認めたそうです。またこの結果はかつら装着時の見た目への満足度を評価したVASスケール(アンケートをもとに数値化したもの)と正に相関していたそうです(あれ、男性は・・・?)。

以上の結果から,エビデンスレベルは低いものの,かつらは円形脱毛症患者のQOLを改善させる効果があると考えられます。

海外ではかつらが医療用具として健康保険の対象と なっている国もあるので、病的脱毛症に対してのかつらは、医療法上認知されるべきとの考えから、委員会判断として推奨度Bとなっています。

※日本では保険適用外です。

治療せず経過観察:C1

円形脱毛症に対して積極的な治療介入をせず、患者の心理面に配慮しつつ経過観察することも「治療」の選択肢 のひとつとなり得る。

円形脱毛症を無治療で経過観察した症例集積研究(コホート研究)によれば、アトピー性疾患や自己免疫性内分泌疾患などの併存症がない単発型あるいは少数多発型円形脱毛症1,716例のうち,1,263例は1年以内に脱毛斑が消失した。

一方、重症型である全頭型,汎発型円形脱毛症では 略治例は稀であり,長期間かつ広範囲に脱毛を来して いる症例の予後は悪い。

システマティックレビューによればプラセボと比べ 明確に発毛を促進させる治療法はなく治療介入により長期予後が改善するという明確なエビデンスもない。さらにエキスパートオピニオンにおいて、脱毛の再発を予防できる治療法はないとされている。

円形脱毛症では自己反応性リンパ球のターゲットとなるのは下部毛包であり、上部毛包に存在する幹細胞は傷害されないため、寛解期に入れば毛髪は再度成長する(下図)。

横浜国立大学、 景山達斗先生の博士論文(2017年)より図を拝借しました。

以上のことを踏まえると、患者に対し心理的な配慮を行いつつ、治療せずに経過観察するという選択肢を患者へ提示してもよい。

円形脱毛症の治療法まとめ~経過観察に意外と光あり?

治療法については多くの選択肢がありますが、医学的検証に耐えられるレベルの臨床データがそろっておらず、そもそも議論できないものが多い印象を受けます。

そもそもがストレスによるもの、という前提で、ストレスを緩和することから脱毛に対する治療効果を期待するような治療戦略なのかな?と疑ったりしています。

そんな中で、治療せず経過観察、という判断も確かに有効かもしれないと思うようになりました。特に上記の太線部分、「自己反応性リンパ球のターゲットとなるのは下部毛包であり、上部毛包に存在する幹細胞は傷害されないため、寛解期に入れば毛髪は再度成長する 」という部分は今回初めて知りました。

今治療を止めても寛解期に入りさえすれば状態は回復する可能性があると知れてかなり安心しました。

以上、忖度なく治療の推奨度にも言及して治療法をまとめてみました。今後の治療計画のお役に立てばうれしいです。

参考文献

横浜国立大学 影山達斗先生『毛髪再生医療を目指した毛包原基の大量調製に関する研究』